SDGs11. 「住み続けられるまちづくりを」
はじめに
2020年度から始まった新しい「学習指導要領」には、学校で学んだことが子どもたちの「生きる力」となって、明日に、そしてその先の人生につながってほしい。これからの社会が、どんなに変化して予測困難になっても、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、判断して行動し、それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。そして、明るい未来を、共に創っていきたい。そうした願いが込められています。
生きる力を育むために2つ重要な点があります。まず1つ目に、主体的・対話的で深い学びの視点から「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」を重視して授業を改善するという点。2つ目に、カリキュラム・マネジメントを確立して教育活動の質を向上させ、学習の効果の最大化を図るという点です。
この2つの学びを実現するために、一つ一つの知識がつながり、「わかった!」「おもしろい!」と思える授業にしたり、周りの人たちと共に考え、学び、新しい発見や豊かな発想が生まれる授業にしたり、教師が連携し、複数の教科等の連携を図りながら授業をつくったり、地域と連携しよりよい学校教育を目指したりすることが重要です。この学びの実現のために、「身近な社会課題」をテーマに授業を行いました。
本プロジェクトは、「世田谷区教育委員会」、「世田谷区立池之上小学校5年生」、「池之上小学校PTA」「公益社団法人東京青年会議所世田谷区委員会」、「株式会社weclip」、「株式会社キティクラブ」が協力して行っているプロジェクトです。総合的な学習の時間でSDGs11.「住み続けられるまちづくりを」のテーマに沿って授業を行っております。初回の授業では、株式会社日立製作所で働きながら株式会社weclipで共同代表を務める大澤彰裕さんを講師にお招きし、「まちづくり」に関する講義を行っていただきました。
①導入授業(2022年6月14日)
総合的な学習の時間で、SDGs11.「住み続けられるまちづくりを」というテーマに沿って授業を行い、初回の授業で株式会社日立製作所で働きながら株式会社weclipで共同代表を務める大澤彰裕さんに、「まちづくり」について講義を行っていただきました。そして、子ども達と一緒に、「どんな街だと住みやすいか」ということを考え意見を出し合ったところ、「安心安全なまちを作りたい」という結論に至りました。
②実態把握(2022年6月24日、7月8日)
北沢警察署スクールサポーターの矢田修宏さん、池之上小学校のOBでもあり「子ども110番の家」に実際に登録されている「下北沢東会商店街」会長の金子健太郎さんをお招きしました。
実際に「被害を受けそうになった場合はどうしたら良いか」という観点で細かく掘り下げて子ども達と考えました。
そして、交番の数が少ない、逃げ込める場所や助けを求められる場所が少ないという実態が分かり、安心安全なまちにするために、自分たちより小さい小学生たちを守るためにも『「子ども110番の家」を増やすこと』を目標に定めました。
③子ども110番の家の把握、行動へ
夏休み中、通学路や自分たちの生活圏内に「子ども110番の家」がどのあたりのあるのかを調査することにしました。
駅前には集中しているけど、少し離れたところや薄暗いところには「子ども110番の家」があまりないことが分かりました。犯罪の抑止力としても有効な「子ども110番の家」のポスターを出来るだけ多くの住宅や店舗に貼ってもらうために、この実態を伝えるべく、子ども達から大人たちへのプレゼンテーションを計画することになりました。
④プレゼンテーションの授業(2022年9月5日、9月9日)
外部講師を招き「プレゼンテーションの有用性」を学び、各クラス5グループに分かれてプレゼン資料を作りました。大人たちに対して、どのようにプレゼンをすれば胸に響く内容になるのか、「子ども110番の家」を増やすことに協力してもらい家や店舗にポスターを掲示してもらえるのか。
子ども達は真剣に考えて資料を作り、発表準備に励んでいます。
⑤プレゼンイベント(2022年10月7日)
児童が真剣に「安心安全で、住み続けられるまちづくり」を考えています。
その想いを、近隣地域に住む方やお店をやられている方々に伝えたいと思っています。
ぜひ、子ども達の真剣な想いに耳を傾けていただきたいと思います。
『子ども110番の家』を増やすために。
⑤『プレゼンイベント』。子ども達が社会課題に挑みました。
池之上小5年生がSDGs11「住み続けられる街づくりを」というテーマで学習しました。皆で真剣に考え辿り着いた答えが「子どもたちが安心安全に暮らせる街」の実現でした。そのため、いざというときに助けを求められる場所やそもそも犯罪が起きづらい状況を作り出すために『子ども110番の家』を増やすことを目標に活動しています。10月7日(金)、児童から保護者や近隣住民の方々に対して、「子ども110番の家の重要性」をプレゼンさせていただきました。プレゼンイベント当日には総勢80名ほどの方にお集まりいただき、子どもたちは緊張の面持ちもありながら、人生初の一生懸命取り組みました。集まった方皆さんは子ども達の熱い想いに耳を傾けていただき、プレゼンを聞いたうえで質問を投げかけていただき闊達なイベントとなりました。
プレゼンイベント当日スケジュール
①受付時間:10時00分~10時25分
受付。
②プレゼンイベント:10時40分~11時40分
5個のブースに分かれて、子どもたちがプレゼンを行います。子ども達の熱のこもったプレゼンをどうぞお聞きください。
③振り返り:11時40分~11時55分
子ども達の代表者数人が登壇して質疑応答を行います。
④アンケート/「子ども110番の家」お申込み:11時55分~12時00分
アンケートにお答えください。「子ども110番の家」にご登録いただける方はぜひご協力ください。
⑥振り返り授業(2022年10月27日)
「大人も子どもも安心して暮らせる街」を実現するために、子ども達が真剣に考えました。安心安全なまちの実現に必要なもの、それは『子ども110番の家』を増やすということ。
「子ども110番の家」は池之上小学校のエリアでは85件しかなく、ましてや交番は近場にひとつもありません(北沢警察署管内の交番は8つしかない)。そして、世田谷区全体の子ども110番の件数はここ数年に減少傾向にありました。そんななか行ったプレゼンイベント。
結果として、池之上小学校のエリアで10件を超える申し込みがあり大成功といえる結果でした。
そして、当イベントは世田谷区教育委員会が指定する「シチズンシップ教育の研究校」の対象でもありました。
子どもたち自身が、住み暮らす街に対してどのような心境の変化が起きたのか追ってみたところ、街に対する意識が良い方に変化したことが分かりました。一方で、「自分たちの力で街をよりよく変えることができるか」どうかというアンケートに関しては、慎重な答えが多かったものの、それでも前向きな回答が多かった印象です。
プレゼンテーションを通して得たもの
「人生初」のプレゼンテーション。
仲間と協力して、ときには意見の食い違いから言い合いになることもしばしばあったそうです。自分の意見を主張するばかりでなく友達の意見も受け入れて、目標に向けて精度を上げていく作業は、まさに実社会でも行われていることです。
振り返り授業の際に、子どもたちの意見に耳を傾けると「言い合いになった」「ケンカしてしまった」という声が聞こえました。果たして、それは「言い合いなのか?」「ケンカなのか?」。「正解が決まっていない事象・課題」にもっともっと触れてもらいたいと感じました。ほかの人の意見をもとに思考をめぐらせ、合理的に物事を進める力を養うことで、将来に役立ててほしいです。
さて、今回のプロジェクトを企画したことにはもう一つの理由があります。世田谷区の小学生はテストの点数は良いのですが、全国の小学生と比べ「学力が将来役立つと思っている児童が少ない」という調査結果が出ています。
ただお受験のために勉強するのではなく、将来に役立つことと知りながら学ぶことに意義があります。そして、とてつもなく大きな問題とさえ思える「社会課題」すら、今の「学びの力」を総動員することで解決した経験を得ることができたのならば子どもたちの記憶に深く根付き、「受験のための学び」が「将来に向けた生きた学び」に変容することを期待してこのプロジェクトを企画しました。その点において、大半の子どもたちは「学び」を複合的・網羅的に活用して課題解決ができたという実体験を得られたようでした。
おわりに
今回のプロジェクトは、良い結果でも悪い結果でも、どちらに転んでも大きな学びがあると思っていました。
しかし、子どもたちにとっては「初めて挑戦する社会課題」「初めて行うプレゼンテーション」など挑戦の色が強く、ストレスに感じていた子もいるかもしれません。そう考えると、ハッピーエンドで終えられたことはとても良いことでした。子どもたちにとって、一生記憶に残る授業になればと思いますし、大人になるにつれてこの経験がみんなの将来を照らす一助になればと思います。
さて、最後にこのプロジェクトにもう一つのねらいがありました。それは、大人たちが学校教育に関わること、もしくは学校を近しい存在と思うきっかけ作りでした。大人たちへのアンケートでは、この事業を通して「学校教育への関心」「学校への親近感」が湧いた方は全体の95%を超えていました。子どもたちの将来のためにも、気軽に大人が学校教育に介入して、社会で得た経験を存分に活かして教育に参加していただければと思っています。
公益社団法人東京青年会議所 世田谷区委員会
副委員長 松原 吉輝 /委員長 増田 拓真