齋藤 千秋 Chiaki Saito
株式会社キュレオ
法人サポートグループ マネージャー
(サイバーエージェントグループ)
今回のスクスクでは、小学生以上を対象にしたQUREO(キュレオ)プログラミング教室を全国2700カ所(2022年9月現在)展開されている株式会社キュレオの齋藤マネージャーにお話を伺いました。2025年の大学入学共通テストにプログラミングが導入されることが決まり、デジタルネイティブ世代にとってプログラミングはますます重要な教科となります。株式会社キュレオの取り組みについてお聞きしましたので、ぜひご一読ください。
「QUREO(キュレオ)プログラミング教室」について
松原:本日は宜しくお願い致します。まずはキュレオ社のサービス概要についてお伺いできればと思います。
齋藤:
はい、2019年にサイバーエージェントの子会社として設立し、「QUREO(キュレオ)プログラミング教室」というブランド名で全国2700カ所以上のプログラミング教室を展開しています。現在、小学生向けのプログラミング教室としては、国内最多教室数となりました。
「QUREOプログラミング教室」の特長は、「パソコン初心者のお子さまでも楽しく取り組める」「楽しみながらも学習内容は本格的」という点です。当社が独自で開発したオンライン教材によってそれを実現しています。
松原:その教材がカギだということですね。
齋藤:
そうなんです。米マサチューセッツ工科大学メディアラボで作られたビジュアルプログラミング学習ツール「Scratch(スクラッチ)」をもとに、独自で開発したオンライン教材です。
まだキーボードタイピングができない子どもでもプログラミングができるよう、指示内容の書かれたブロックを組み合わせてプログラムを作っていきます。マウス操作がメインになり、視覚的にプログラミングに取り組んでいくことができます。
松原:子どもでも取り組みやすいですね、でもそれなら「Scratch」でいいですよね。
齋藤:
たしかにビジュアルプログラミングをするのであれば「Scratch」でできます。私たちが開発した教材では、プログラミングの基礎概念を身につけるのに最適なカリキュラムに基づいて、約400レッスンが用意されています。これは、当社の兄弟会社である「※1 CA Tech Kids」が長年のプログラミング教室運営で培ったカリキュラムです。
順次実行、繰り返し、条件分岐、座標、変数…などといったプログラミングの概念を、どのように学んでいくのが小学生にとってわかりやすいか、考え方が身につくか、といったノウハウを詰め込んだカリキュラムです。
松原:なるほど。教材を拝見するとキャラクターも多くゲーム性が強く見えますね。
齋藤:
子どもが飽きずに楽しく続けられるための仕掛けです。小学生にとっては継続するうえで「楽しく学ぶこと」が大事だと思っていまして、キャラクターやアニメーションも多くして、見た目もゲームっぽくしています。レッスンをクリアするごとにレベルが上がり、新しいキャラクターがもらえるなど、「※2 ゲーミフィケーション」もふんだんに取り入れています。
また、子どもが取り組む学習も「ゲーム作り」なんです。毎レッスン1つ以上のミニゲーム作りに取り組みます。例えば「もぐらたたきゲーム」を作るなかで「乱数」の活用を覚えるといったように、プログラミングを自然に身につけられるようになっています。
松原:子ども達にとっては面白い教材なんだろうなと思うんですが、文科省や小学校が求めるプログラミング教育とは合っているのでしょうか?
齋藤:
「QUREOプログラミング教室」の学習内容が、小学校教育の内容に沿っていて予習や復習になるのかといわれると違う、という回答になりますね。なぜかというと、文科省の指導要領には、「プログラミング的思考を身につけること」が目的であると書かれており、「プログラミングそのものを学ぶべき」とは書かれていないのです。
「プログラミング」という教科が新設されたわけではなく、既存の教科の中でプログラミングを活用してより学びを深めましょう、という内容になっています。そして、実際にどんな授業を行うかは学校現場に任されています。たとえば、算数の授業でプログラミングで図形を描いてみよう、というのが多く行われているようですが、中には体育や家庭科の中で論理だててプログラミング的な要素を入れれば良い、という授業も見られます。
一方で、高校では今年度からプログラミングを含む「情報Ⅰ」という科目が新設され、その教科書がすごい、と最近話題になりましたよね。2025年の大学入学共通テストからは、プログラミングが出題されることが決まっており、国立大学受験の必修科目に「情報」が加わったことも発表されています。
「QUREOプログラミング教室」は、プログラミング技術そのものを正しく身につけることを目的としたカリキュラムですので、「小学校の授業」には沿っていませんが、中高生~大学生までで学習する数学や情報などの内容に及んでいます。
また「QUREOプログラミング教室」の学習内容は、小学生〜高校生までを対象とした「プログラミング能力検定」のレベル1〜4(ビジュアル言語版)に準拠していて、日々のレッスンが検定対策になります。これからの大学受験にも役立つように取り組んでいます。
※1CA Tech Kids(シーエーテックキッズ)
サイバーエージェントのグループ会社である株式会社CA Tech Kidsは、2013年に設立され、これまでに延べ3万人以上の小学生にプログラミング学習の機会を提供しています。直営教室として、小学生のためのプログラミングスクール「Tech Kids School(テックキッズスクール)」を運営し、プログラミングの基礎から、スマートフォンアプリ開発や3Dゲーム開発などの上級者コースを設け、毎年各種コンテストで多数の受賞者を輩出しています。
※2 ゲーミフィケーション
ゲーム要素やゲームの原則をゲーム以外の物事に応用することを言う。
「エンタメ性」で子どもが夢中に
松原:それではもう少し踏み込んで「QUREOプログラミング教室」についてお伺いしたいと思うんですが、キャラクターがいたりマンガにもなったりとエンタメ色が強く見えますが、どういった授業内容なんでしょうか?
齋藤:
有難うございます。そうなんです、この教材は、サイバーエージェントのゲーム開発チームが開発に関わっているので、エンタメ色が強く子ども達が直感的に楽しめる要素をふんだんに盛り込んでいます。具体的な内容としては、カリキュラム全体が「バグによっておかしくされてしまった世界を、正しいプログラミングで救おう」というストーリーになっていて、ガイドキャラクターと一緒に主人公気分で進めていきます。勉強しているというより「ゲームをしているような感覚」で進めることが出来るのがポイントです。子ども達は難しいことをしている感覚はほとんどないと思います。
また、例えば「条件分岐」を学習する章は「イフ工場」、「座標」の章は「マイナスアイランド」といったチャプターにし、子どもがどんどんステージを進めたくなるような仕掛けもあります。
松原:そこまでゲーム性が強いとなると、子ども達もどんどん先に進めたくなるでしょうね!
齋藤:
はい、そうなんです!自発的に進めていこうとするお子様が多いですね。
でもそれだと、しっかりとその「章」で習得してもらいたいプログラミングスキルを得られる前に、先へ先へとどんどん進んでしまう子も出てきてしまうんですよ。「章」をクリアすると、アイテムやキャラクターが貰えるので、お子様によってはスキルを習得する前にどんどん先に進めたくなったり。そういったことが起きないように、先生方が一目で子ども達のプログラミング習熟度がわかるような教師用の管理画面を用意しています。「この子はずいぶん学習スピードが早いけど、実は理解度が浅いまま進めているな」ということがすぐわかってしまうんですね。楽しみながらもしっかりとプログラミングスキルを身につけることが出来る環境を準備してるんです。
松原:なるほど、プログラミングスキルを習得するための工夫をなされてるんですね。
齋藤:
はい、プログラミングにおいて学習成果を可視化することはなかなか難しい側面があるのですが、そこもきちんと取り組んでいます。先程の「プログラミング能力検定」の受験もそのひとつですね。
あとは、教材の中に「自由空間」がありまして、そこでは今まで学んだプログラミングスキルを駆使して「自作ゲーム」を作れます。その自由空間は誰でも最初から使えるんですが、プログラミング知識とスキルがないとちゃんと遊べないようになっていますので、順を追って「章」をクリアする必要性に気付くんですね。「ゲームを作りたいので学ばなきゃ」という主体的な学びに繋がるようになっています。たとえば自力でシューティングゲームを作るには、「レベル20くらいは必要」といった形ですね。
松原:「学び」は好きから生まれますからね!他にも子ども達の学びを促進する仕組みがあるんですか?
齋藤:
はい、CA Tech Kidsが主催する「※3Tech Kids Grand Prix(テックキッズグランプリ)」という国内最大の小学生プログラミング大会があるのですが、そこに「QUREO賞」という賞を設けています。QUREOで開発された作品の中から優秀作品が選出されるので、多くの生徒が参加しています。
※3「Tech Kids Grand Prix(テックキッズグランプリ)」は、Tech Kids Schoolが主催する、21世紀というこれからの時代を担っていくすべての小学生に向けたプログラミングコンテストです。
「QUREOプログラミング教室」が描くビジョン
松原:そもそも2013年からプログラミング教育を行ってきたCA Tech Kidsがありながらも、「QUREOプログラミング教室」をつくった理由はどこにあるんでしょうか?
齋藤:
はい、2013年当時は、社会背景としてもまだまだ子ども向けのプログラミング教育は全く注目されていなくて、むしろ世間には「子どもにはパソコンを使わせたくない」という雰囲気がありました。ですので、当時のCA Tech Kidsはスクールだけでなく、全国各地でワークショップを実施をしたり、文科省に働きかけをしたりといった啓蒙活動にとても注力してきました。
「2020年からの小学校でのプログラミング教育必修化」が決定した2016年前後からは、様々な企業や団体の参入が相次いで、プログラミング教室が一気に増えました。首都圏においては一大ブームのような様相に。
その一方で、プログラミングを教えられる人材も環境もないという地方には、学びたくても教室がないという状況が生まれていました。実際、CA Tech Kidsにプログラミング授業の支援や協力を求める地方自治体のかたからのご要望も多くいただいていました。
本来、プログラミングというのは「誰でも、どこにいても、自分のアイディアを発揮できるもの」という優れたテクノロジーであるのに、プログラミング教育の地域格差が生じていることに課題を感じました。小学校の必修化に続いて、中学高校、そして大学受験にも導入され、これからの時代を生きていく子どもたちにとってプログラミングやITリテラシーが重要だという認知は広まった、次なる課題は地域格差だとなったんですね。
そこで、CA Tech Kidsが培ったカリキュラムを全国各地に提供しようと生まれたのが「QUREOプログラミング教室」です。
CA Tech Kidsだけで全国の子どもたちに届けることも試みましたが難しく、塾などを運営している株式会社スプリックスとのジョイントベンチャーとしてキュレオ社を設立しました。スプリックスは全国の塾事業者にネットワークを持っており、驚くべきスピードで全国展開が進みました。「プログラミングを教えたいが講師がいない、教材が作れない、ノウハウもない」という塾事業者のニーズにマッチしたのだと思います。
教材の「プログラミングがきちんと身につくカリキュラム」「子どもが自ら進んで学習する仕掛け」「生徒の学習状況が管理しやすいシステム」などが評価をいただいています。
松原:有難うございます。それでは最後に、「QUREOプログラミング教室」がもつビジョンについてお伺いできればと思います。
齋藤:
有難うございます。現在、全国に2700以上の教室を展開し、小学生向けプログラミング教室としては日本で一番多いプログラミング教室になりました。今後もプログラミングを学ぶ環境をさらに多くの地域に広げたいと思っています。
また、教室数だけでなく、今「QUREOプログラミング教室」で学ぶ子どもたちが、全レッスンを終える1〜3年後にどういった成長を見せてくれるのか非常に楽しみにしています。子どもたちの吸収や成長はとても早いですから、私たちも常に教材をブラッシュアップしたいと思っています。
齋藤 千秋(さいとうちあき)さん
株式会社キュレオ
法人サポートグループ マネージャー
東京学芸大学教育学部初等教育教員養成課程国際教育選修卒業。在学中に株式会社サイバーエージェントに内定後、子会社のCA Tech Kidsにて内定者アルバイトを開始。2015年の卒業とともにそのまま同社へ配属。小学生向けプログラミングスクール運営、新規事業立ち上げなどを経て、2019年株式会社キュレオ設立と同時に法人向けサポートを務め、現在全国2700以上の教室の運営支援を行う。
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