【異年齢集団での学習】『教育の当たり前』を疑う

大畠校長先生

「学び好きな子」になってもらいたい

松原:それはすごいですね!その質問をした3年生の子は、さらに健康に興味が沸くでしょうね。

大畠
そうですね、とてもよい経験が出来たと思います。

私は「学び好きな子」を育てることが一番の目標です。総合的な学習の時間の目指す児童のイメージは「サンドイッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に出演している子供たちですね。3年生で「健康」というテーマを選択し6年生まで同じテーマを選べば、4年間も「健康」について学びを深めることができます。

そうすると、好きなことを学べるので探究を繰り返し、その過程で得た知識や技術は、担当の教員や保護者よりも「健康」というテーマにおいて詳しくなれるかもしれません。健康博士ちゃんです。

また、私が「学び好きな子」になってほしいと思う理由として、「学び」はなにも学生だけのものではなくて、社会人になってからも継続して行うものだからです。企業に勤めて目標を達成するためには学びが必要です。ですから「学ぶことの大切さ」「学ぶことの楽しさ」「探究する楽しさ」を味わわせたいです。

ここに一つ矛盾があります。通知表です。「学び好きな子」を育成するためには、通知表のあり方を変えないといけないと思っています。本校の通知表は「よくできる」「できる」「がんばろう」の3段階評価です。一生懸命課題に取り組んでもテストができないから「がんばろう」の評価をつけなければなりません。頑張ってだめだった児童に担任は「がんばろう」と念押しすることになるのです。このような評価方法で6年間過ごした児童が「学び好き」になるのでしょうか?

もちろん定量的な評価は悪いことではなく、保護者にとってはわかりやすいと思います。よい評価を得るために頑張れる児童もいるでしょう。しかし、「学習の過程」に目を向け一人一人のよかった点を認めることが重要だと思います。幼い小学生が「算数のテストが悪いから嫌い」となっては、その児童の可能性をつぶすことになります。

松原:勢力的に様々取り組まれていらっしゃいますが、ほかにも新たに取り組んでいらっしゃることはありますか?

大畠:
まず、児童が大人の監視下にない自由な場で遊べる時間を与えてあげたいと思っています。ですから、出来るだけ早く児童を下校させるようにしています。そのため、まずは「時間割」を変えました。これまでは、朝に登校してから業前の活動として読み聞かせをしたり、国語タイム、運動タイムなどを行ったりしていましたが、この活動をなくし、いきなり朝の会を始めることにしました。

この朝の会や帰りの会の名称を変え、児童の非認知能力をはぐくむ時間にしました。「チェックイン」「チェックアウト」です。

■チェックイン
・朝の会で瞑想し、自分の呼吸を意識する。
・担任が提示するテーマで2~4人で集まって自由にトークをする。指導は一切ない。毎日行うことでコミュニケーション能力や互いの違いを認め合うことを自然と体感していく時間にしている。

■チェックアウト
・帰りの会で一日の振り返りをする。
・目指すのは、自己肯定感とメタ認知力の向上。反省をするばかりでなく、自分を自分で伸ばす活動。ただ「楽しかった」ではなく具体的に振り返ることで内省する力を高める。その繰り返しでメタ認知力を高めていきたいと思っている。

松原:これは社会人でも推奨されるような試みですね。

大畠:
「学校」という場所は、数限られたリアルに児童が接することが出来る場所です。ですから、こうした活動を通して児童の非認知能力が高まってくれることを期待しています。

ほかに行っていることとすると「教科担任制」ですね。

5、6年を対象に、教科担任制を導入し、一つの教科を専門的に研究してもらい、ICT機器を効果的に活用した学びを児童に提供します。これにより、授業の質も高くなりますし、すべての授業準備をしなければいけない教員の負担を軽減する効果もあります。加えて児童をチームでサポートすることができます。

社会が変わった。学びも変わらなければならない。

松原:一般的に学校は変化を好まないケースが多いと思っているんですが、なぜこれほどまでに多くのことに取り組むことができるんでしょうか?

大畠:
それは社会が大きく変化しているからです。

もはやよい大学に行ったとしても人生の成功は約束されません。いざ社会に出て会社に入社しても、3年未満で約30%の人が離職したり、同じく約3割の人が非正規雇用だったりする時代です。

自分自身のことがよくわかっていて、なにかを切り開いてチャレンジ出来る人は、この世の中をたくましく生きていけると思っているのです。そうではない人は、何かの壁にぶつかったらそこで悩み苦しんでしまう。

また、世の中は便利になったけど、お年寄りの方は暮らしづらくなってきたのかもしれない。お会計も昔は現金のみだったけど、今は電子マネーもクレジットカードもポイントもある。

社会がいかに高度化、複雑化しても、児童が自由に生きていけるように育てることが私たちの使命です。そういう意味では、明治時代から教育の本質は変わっていないと思います。

さて、この現状の社会的課題に対して少し視点を変えると『むしろ、学校の教育が間違っていたから今の大人たちは生きづらくなっている』と思いませんか?

教員とは「すべての物事を教える仕事」である、というスタンスも変えないといけないと思っています。

変えるべきことは変えなければいけません。変えることを恐れてはいけません。教員とは何かを変えたり創造的な仕事をしたりすることが苦手な職業かもしれません。忙しいですから。何かを変える場合は批判やクレームが殺到します。でも私はそれを覚悟していますし、それに応えられる信念があります。現実的に何かを変えるには相当な労力が必要になりますので、実行に移すことは容易ではありませんが、一つ一つ解決しながら実現することにやりがいを感じます。

私は、何かを変えたり新しいことにチャレンジしたりする時には「プール理論」を大切にしています。

クロールなどの泳ぎ方を覚えるには、まずは大前提としてプールに入らないといけないですよね。うまく泳げるか分からないけれど、まずはプールに入って見よう見まねでもチャレンジしよう。そういった考え方です。

新しいことを取り入れても、すぐに成果が出るとは思っていません。本校の総合的な学習の時間も試行錯誤しながら、目標としては3年間でカリキュラムを作り上げたいと思っていますし、持続可能なカリキュラムを作りたいと思っています。

weclipさんの力を借りながら、優秀な水谷小のスタッフと頑張ります。

大畠校長先生とweclip
大畠校長先生、林先生、weclipのメンバー

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松原 吉輝
(株)weclip共同代表。2児の父で教育に深い関心がある。2016年9月にGIVE&GIVE(株)を設立し、EC運営代行、ECコンサルティングサービスを軸に事業を展開する。また2021年に新規事業開発・事業プランニングを専門で行う会社(株)HItoHIを設立。