【異年齢集団での学習】『教育の当たり前』を疑う

大畠校長先生

大畠 仁   Hitoshi Ohata
埼玉県富士見市立水谷小学校 校長

今回のスクスクでは、埼玉県富士見市立水谷小学校の大畠校長先生に、水谷小学校が実践する異年齢集団で取り組む総合的な学習の時間についてやいま捉えていらっしゃる教育観などについてお話を伺いました。

30年前の教育と、現代の教育

松原:新しい学習指導要領が出て数年が経ちましたが、昔の教育といまの教育の違いはありますか?

松原さんたち子育て世代が分かりやすいように「30年前」と「今」の教育を比較したいと思います。総じて言えば、「30年前」も「今」も大きくは変わっていないと思います。今は校長の立場ですが、30年前は私も教員として教壇に立っていました。そのときの学びの在り方は、担任がいて、黒板にチョークで書いて、それを児童がノートに写す。加えて、今と同じように、運動会をやったり、朝の体育朝会や児童朝会などを行ったりしていました。

30年前をもう少し細かく見ていきますと、6時間目の授業はクラブ活動と委員会活動だけでしたし、土曜日に授業がありました。それから、TT(一つの教室に二人の先生がいる状態)といった制度も既に導入されていました。

色々と工夫を凝らして新たな教育を実践してきましたが、30年前と今を比べて教育の質が圧倒的に向上しているかというと、私はそうは思いません。

そうは言っても大きく変化を遂げようとしたタイミングもあります。たとえば、平成24年の学習指導要領から「総合的な学習の時間」という授業が設けられたことです。いわゆる「ゆとり教育」と言われる時代のことで、私はまさにこの「ゆとり教育」こそが今の時代にマッチしていると考えています。

松原:「ゆとり世代」というと、社会に出ると少しネガティブに捉えられてしまうことが一般的だと思います。

そのように捉えられていますよね。でも、私はそうは思っていません。

以前から国語・算数・理科・社会を学んでいるだけでいいのかと疑問を感じていました。教科以外に大切な学びがあるのではないかと。もちろんこれら教科を学ぶのはとても大切なことです。児童の視点に立つと、こういった教科の学習は正解があるからわかりやすいですよね。教員の視点に立っても、ある意味、型にはまっているので授業をしやすいです。

一方で、総合的な学習の時間には正解がありません。「終わりのない探究」がとても魅力的で、そういう意味で、平成24年の学習指導要領を私は肯定的に受け止めていました。

しかし、松原さんが言われるように、「ゆとり教育」と揶揄されてしまうようになりました。点数化しやすい国語・算数などの点数が下がったために、「学力の低下」を招いたと問題視されたのです。 OECDによる国際学力調査の結果が前面的に取り出され、加盟国中の順位が下がったことで「ゆとり教育」が批判されました。

探究的な学びは誰もが大切だと思っているのに十分な効果の検証が行われないまま、一時的に点数が下がったことで「児童の学力が低下した」と決めつけるのは時期尚早だと思っていました。児童にとっての「本質的な学び」は何か、それを本気で考えないといけません。

松原:なるほど。私は「ゆとり教育」をその言葉の通り「学習進度にゆとりがある教育」と捉えていました。

「ゆとり教育」という言葉が誤解を生むのかもしれませんね。松原さんは30代後半なので、いわゆる「教え込み教育」の世代ですね。その「教え込み教育」からの脱却を目指して「ゆとり教育」になり、結果、学力調査結果の数値が他国と比較して低くなったので、なんとか改善しようと今度は総合的な学習の時間を残したまま授業時数が増えてしまったわけです。

その結果、残念なことにさらに忙しくなった教員は、学びを想像する時間がなくなってしまいました。子供に時間を返し「ゆとり」のある学習過程は効果の検証がはっきりされないまま、次の学習指導要領により、ゆとりとは真逆のきわめて多忙な学校生活を送ることになってしまいました。当時、私には学校教育が迷走しているように思えました。

松原:そういった変遷があったなか、新しい学習指導要領が出ました。世間からは革新的だという評価もあるそうですが、大畠校長先生はどのように思われますか?

大畠:
中央教育審議会の答申で「令和の日本型学校教育の構築」を目指すと言っているのです。

『すべての子供たちの可能性を引き出す』『個別最適な学び』『協働的な学び』などがキーワードとしてうたわれていて、『いままでの学びの反省から新たな学びを創造し、非認知能力の育成を目指すこと』ととらえています。しかし、これは言うほど簡単ではなく具体的な教育活動にどこまで落とし込めるかが重要だと思っています。

松原:なるほど、なにか教育現場で変わったと感じられることはありますか。

大畠:
個別最適な学びを実現するために公教育には一人1台端末が整備されました。また、多様な学び場や児童サポートが充実してきています。たとえば、特別支援学級の増設、適応指導教室や放課後デイサービス、NPO法人による学習サポート、ジュニア・アスポートなどです。これは非常によい点だと思います。

松原:「子どもを取り巻く環境の変化」ということですと、昔と今では遊び方が様変わりしましたね。

30年前だとファミコンが出始めたころですよね。その後、カードゲームやミニ四駆、ポケモンなどが流行りました。TVゲームも進化してゲームボーイやプレイステーションが流行り、外遊びから自宅遊びに遊びの場所が移行しました。ただ、30年前とそれ以前の遊びには共通していることがあります。それは「リアルに集まって遊べていた」ということです。

実はここにも先程の「授業時数の問題」が関わっています。30年前はまだ授業時数が少ない時代だったので、「今日は〇〇の家に15時半に集合して○○しよう!」とか「家に帰ったらすぐ学校に集まってサッカーやろう!」とか、そんな遊び方をしていたと思います。リアルに時間と場所を共有していました。

しかし、今の児童は授業時数が多いので、家に帰ると16時半とか17時近くになっていて皆で集まりづらくなっています。そのため、「今日は△△に18時に集合な!」といってオンラインゲームをするわけです。オンラインゲームが悪いと言っているのではなく、そういう環境になってしまった、ということです。

改めて考えてみると、「リアルで遊ぶこと」にはとても意義があったと思います。たとえば友達の家に集まると、その友達の兄弟や保護者と自然と接する機会がありましたよね。公園に行くと誰かがいて、上級生、下級生関係なく一緒になって遊んだり、たとえ一緒に遊ばなかったとしても上級生の遊んでる姿、遊び方を見て刺激を受けたりしていました。非認知能力はこのような場で育ったように思います。

小学校の高学年と低学年は、体格的にも能力的にもとても大きな差があります。本来、異年齢の人と接することで得られるものはかけがえのないもので、それは授業で教えられるものではありません。子供たち自身がその「違い」を感じることに多くの学びが詰まっていて、放課後の遊びの場こそ生きるための力を養う学びの場だったのかもしれません。 しかし、先ほど述べたように今の教育課程では、異年齢が一緒にいられるような環境があまりに少ないのです。私はとてもそのことを危惧しています。本校の教育活動としてそのような環境を作りたいと思ったのです。

大畠仁校長先生
当時の大畠校長先生

『異年齢集団』での総合的な学習の時間

松原:だから水谷小学校では異年齢集団で総合の授業を行っているんですね。

はい。そもそも社会的課題のような『答えを導き出すのが困難な課題』は、一人の知恵だけで解決出来るものではありません。プロジェクトチームを作って、みんなで協力しあって解決に向けて試行錯誤をする必要があります。

歴史からも、アインシュタインのような突出した天才は稀です。大昔から、生活の中で生じた問題をそれぞれの人が持つ得意分野を生かして集団で解決してきたはずです。つまり、総合的な学習の時間の学びは「一人」で成立するものではないと思っています。そもそも課題解決は協働的であったという考え方です。

さて、本校の総合について少しお話しますと、まず8つのテーマを設定して、3~6年生の児童が、自身の希望したテーマを選択します。人気のあるテーマには多くの児童が集まることもあるので、そのテーマ内でグループ分けをする場合もあります。

「異年齢」で総合的な学習の時間を行う理由ですが、年齢が違うということは置かれている立場や知識量が違うということです。面白いことに、総合の授業をやっているクラスを覗くと、どことなく柔らかな雰囲気のよさを感じるのです。異年齢の児童が無意識に助け合っているからかもしれません。

たとえば、6年生であれば積極的にリーダーシップを発揮するような児童もいますが、恥ずかしくて慎重に周りを伺うような役回りに立つ子もいるかもしれません。一般的に、3、4年生は知識の面では5、6年生に劣るものですが、一方で物怖じせずに意見を言える立場でもあるんですよ。

松原:なるほど。それでも、そもそも総合の授業を構築するのは中々大変ですよね。

大畠:
その通りです。総合的な学習の時間はそもそも「答えがない」ものですから。

それに教材がないので「児童に対してどんなテーマを与えるか」「どのように寄り添って児童の主体的な学びを構築していくか」、このあたりが大切になってきます。

総合の授業では、自由な課題設定と自由な解決方法が児童に与えられています。そのため、専門的な知識や技能を持った方の力を借りて学習を行うことはとても効果的です。

しかしながら、教員が地域の方々や店舗、企業とコミュニケーションをとり、関係を構築して学習をプログラムするのはとても難しいです。能力の問題ではなく、単純に教員は忙しくて時間がないのです。そのため総合的な学習の時間は教員にとって負担の多い時間となっています。

松原:そんななか水谷小学校では異学年の総合の授業に挑戦されていらっしゃるんですね。

大畠:
はい、そうですね、水谷小の先生たちは本当によくやってくれてます!

去年の総合的な学習の時間で印象に残った事例を挙げますと、理化学研究所と連携した学びがあげられます。理化学研究所の所員さんと児童がリモートでインタビューをした取り組みです。このグループのテーマは「健康」なのですが、このときの3年生のインタビューがとても鋭いものでして、その質問した内容は理化学研究所でも重要視しているポイントだったそうです。3年生の思考の観点が、専門家である理化学研究所のそれと合致していたんです。

この経験を経て、その質問をした3年生はもちろんのこと、このグループに所属している児童はワクワクしたはずです。自分たちの発想が、理化学研究所の方々と同じ発想であるという時間を得られたわけですから。これは、「学び好き」になる一つのきっかけになるはずです。

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松原 吉輝
(株)weclip共同代表。2児の父で教育に深い関心がある。2016年9月にGIVE&GIVE(株)を設立し、EC運営代行、ECコンサルティングサービスを軸に事業を展開する。また2021年に新規事業開発・事業プランニングを専門で行う会社(株)HItoHIを設立。