子どもたちを信じる 〜相互理解を通した学びづくり〜

林先生

林 義幸   Yoshiyuki Hayashi
富士見市立水谷小学校 主任教諭
異年齢グループによる総合的な学習の時間 コーディネーター

今回のスクスクでは、埼玉県富士見市水谷小学校で総合的な学習の時間「Unlearnプロジェクト(※1)」のコーディネーターを務める林 義幸先生にインタビューを実施。全国でも事例の少ない異年齢グループによる学びづくりを推進する林先生の教育観、指導観と、子どもたちへの想いを伺いました。

Unlearnプロジェクト(※1)
2021年度より埼玉県富士見市立水谷小学校で取り組んでいる、3〜6年生の異年齢グループによる総合的な学習の時間。全国でも珍しい異年齢グループで取り組む学び作りを推進している。

「子ども」と「教えること」が好きだった

大沢:
まず、林先生が教員を目指すようになったきっかけを教えてください

林:
はい。私は地元が埼玉県秩父市で実家から高校に通うことになってました。ご存じかもしれませんが、秩父市付近には選べるほど高校の数が多くなかったので、将来を見据えた進路設計は保留してとりあえず近場の高校に進学しました。

そして、大学進学の際にはしっかり進路先を考えたいと思いまして、高校2年生のころから将来のことを意識し始めました。

その頃、自分が本当に好きなことは何だろう、とけっこう自身の棚卸をしていました。そうしたところ、「人と関わるのが好き」「人に何かを教えることが好き」「子どもが好き」というところに行きつきました。

「人と関わること」について表現が難しいんですが、「伝え合い」や「教え合い」の連鎖がコミュニケーションを形作っていると考えることが出来ると思っていまして。あと、たとえば「何かを教える」といってもそれは勉強だけではなくて、スポーツやゲーム、ちょっとしたウンチクなんかもそうでして。そんなことを高校時代に考えていたら、自然と将来設計は「教員」になることに行きついていて、教員免許が取れる大学を志望するようになりました。

大沢:
教えることがお好きということでしたが、ちなみに勉強はお好きだったのですか

林:
それが全然好きではなかったですね(笑)。クラスでは悪いことをして怒られるというより、単純に宿題をやらなかったり、よく忘れ物をして怒られるタイプでした。「手のかかる子」ですね。そんな私がよく教師になったなーと思います(笑)。

教員だけが教えているわけではない

大沢:
手のかかる子だったという林先生ですが、日頃の子どもへの指導について教えてください。

林:
現在は35人の学級を担任しており周りからは多いと言われますが、自分は極端な話何人でもいいと思ってるんです。もちろん、児童数が少なければ自分が見られる範囲は相対的に増えます。しかし、実際には自分だけが教えているわけでは無く、子どもたち同士でも教え合いをしています。そのため、指導する人数には重きを置いていません。児童の数が多ければ、動ける子どもたちも増えますからね。働きバチの法則(※2)じゃないですけど、良い意味で空気を読む子も出てきます。

あとは、「教員が子どもたちをどこまで管理したいのか」ということにも寄りますね。子どもたちが心配で、その行動を細かく管理する方もいらっしゃいます。ただ、やはり子供を信じたいですよね。失敗しないように管理するのではなく、失敗してからの管理やサポートをしたいところです。

大沢:
失敗だとしても、やはり自分でやったことの方が後々身についている気がしますよね。

林:
それは子どもたちも同じですよ。

■働きバチの法則(理論)(※2)
よく働く優秀な働き蜂100匹をひとつに集めても、実際に一生懸命に働くのは 25匹くらいで約50匹はある程度働くが全力はださない、残りの約25匹は怠けて働かないという法則。人間が集団を作っても同じような傾向がみられ流と言われる。

林先生

児童理解には2つの側面がある

大沢:
子どもとの接し方において、林先生が何か大切にされていることはありますか。

林:
それは”児童理解”に尽きますね。昔から「とにかく子どもと一緒に遊べ!」と言われて来ましたが、子どもと向き合って触れると、色々な子がいるし、一人一人個性が異なることがよく分かります。学級担任としては、一人一人の個性がわかっていれば、子どもたちの間に入って理解を深めることもでき、良いクラスづくりができると思います。

それから、私がこの児童理解で大事にしていることは、教師が児童を理解するだけでなく、児童同士が理解を深めることですね。この2つが大切だと考えています。

大袈裟かもしれませんが、児童間の理解が深ければいじめもなくなりますし、そうした相互理解の積み重ねで戦争などの社会問題の抑止にもつながると思うんです。今教えている子どもたちが、お互いを受け入れられる子に育ってくれればと切に思いますね。

大沢:
”最近の若い人”と括ってはいけませんが、自己主張の強さや物事の受容性も変化しているように感じます。

林:
教育現場でも、若い世代で知識・技能的に優れた人は多く入って来ていますが、非認知能力的なところには疑問符が湧くこともあります。時代の変化により教育現場でもいっとき知識や技能を偏重している時期がありました。そのせいか、いわゆるコミュニケーション能力の乏しさを感じるシーンが出て来ています。

最近では、学校現場でもzoomなどの非接触型のコミュニケーション機会も増えており、子どもたちだけでなく、先生にとってもそのスキルの重要性は増していると感じます。

林先生

教員は児童が安心して学べる環境づくりを

大沢:
先生が「児童理解」の大切さにたどり着いたのは、どういう経緯からだったのでしょうか。

林:
教育の世界では昔から重要とは言われていました。学級担任をしていると、毎年何かしらのトラブルは発生します。ただ、本当はそれはトラブルではないんですよね。お互いが理解し切っていないので問題が起こるのであって、逆に言うとそれはお互いを理解し合うきっかけになり得る。

本当に相手のことがわかっていれば、腹が立つようなことも無いはずです。「あの子はこう考えるから、きっとこうするな」と予測ができる。人間、何か予想外のことが起きるからトラブル、と言って焦ったり怒ったりするんですよね。

もちろんそれ自体が悪いわけではありませんが、トラブル続きの殺伐とした空気は好きでは無いので、子どもたち皆が安心してしっかり学びに向かう環境をつくってあげたいと思います。

大沢:
お互いを選択できない公立学校では、益々そうした安心できる環境づくりが求められます。

林:
私は、児童に絶対的に邪悪な子はいないと思っています。もし、何か悪いことをする子がいれば、家庭だったり友人関係だったりに要因があると思っています。そして、そういう要因や、それを生み出している環境こそが本来教師としては解決しないといけないことだと思います。青臭いかもしれませんが、子どもたちに対しては常に性善説でいたいと思っています。

もちろん、全ての教員が性善説でいればいいというものでもないと思います。ただ、私は究極命に関わらないことであれば、子どもたちは失敗してもいいと思ってるんです。子どもは大人が思う以上に周りの環境にとても左右されます。言葉一つとっても、クラスの影響をとても受けますからね。

大沢:
良いクラスづくりには、先生方のそうした力量や心の余裕が必要ですね。

林:
教員の方は勉強熱心だったり真面目な方が多いので、私はよく生徒指導やルール作りに関して甘いと言われますね(笑)。ただ、そうした安心できる環境づくりは大切にしたいと思ってますし、児童を信じることはこれからも大事にしたい。昨年指導した児童から、「ストレスなく学校生活を送ることができた」と言ってもらえたのは嬉しかったですね。

理論的にも、心理的安全性を感じられるクラスの方が子どもは伸びると言われています。随分昔は、先生には威厳や厳格さを求められていたのだと思いますが、今は伸び伸びと学習に参加しやすい環境づくりが求められていると思います。

子どもたちが安心して学びに向かえる環境をいかに作れるか、これがとても重要だと思います。

林先生

人生を楽しめる子どもたちを育てたい

大沢:
さて、今後林先生はどんな子どもたちを育てていきたいとお考えですか

林:
高杉晋作の辞世の句に『おもしろきこともなき世をおもしろく、すみなすものはこころなりけり』というものがあります。「物事を決めるのは自分のこころ次第」という趣旨です。

今はあらゆる環境でそうだと思いますが、コロナ禍で学校現場も大変だ大変だとよく言われます。しかし、大変なのは大変だと思っている自分がいるからだと思うんです。ですから、こうした厳しい環境下でも、そこに何か光を見出して、人生を楽しんでくれる子たちを育てていきたいですね。

人生文句ばかり言って終わるのも寂しいじゃないですか。やはり、どんな環境下でも前向きに、人生を楽しんで貰いたいですね。

そういう子どもたちを今後も育てていきたいと思います。

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大沢 彰裕
(株)weclip 共同代表。(株)日立製作所の鉄道部門でセールスやコンサルティングに従事する傍ら、教育支援会社であるweclipを創業。プランナーとして、スクスクのメディア運営など教育支援事業に従事。1児の父。