【体操クラブ】スポーツを通じて人生を生き抜く考える力を

正解を教えすぎない

大沢:
皆が同じように指導してしまうと子どもも追い詰められてしまいますね。様々な大人が関わりあう場合は、それぞれの役割分担が重要だと感じます。

山﨑:
私の経験則ですが、教えている子どもたちの中で難しいなと感じてしまう子の親御さんは、結構学校の先生や幼稚園の先生など教育に携る方のお子さんであることが多いです。ご家庭で、経験するより先に答えを教えてしまいがちなのか失敗を極端に恐れ、初めてのことや苦手なことに対して取り組みの悪いお子さんが多いです。現在保育園でも体育の先生をやっているのですが、準備運動から全く動かない子もいて、保護者のご職業を聞くと学校や幼稚園の先生ということが多々あります。

物事は最初は失敗を繰り返しながら身につけていくもの。最初から成功する方法を教えられてもできないことは多々あります。最初に教え過ぎてしまうと、教えてもらったのにできないという挫折感を味わってしまい、そのギャップで何に対しても取り組みが悪くなってしまうのではないかと思います。

大沢:
体操に限らずですよね。「まずはやってみよう!」という気概があれば、それが失敗であってもどんどん乗り越えられます。

山﨑:
正解を教えなければ何が失敗かわからないので面白がってやるのですが、教えてしまうと失敗を恐れてやらなくなってしまう。家庭では「正解は教えすぎない」でいいと思います。我々は指導者ですから最初にやることは説明します。聞かせて、師範し、実際にやらせてみるという順序ですね。でもご家庭では教え過ぎないというのが大事でとにかく様々な経験をさせて上げて欲しいです。

スポーツを通して「考える力」を

大沢:
山﨑さんは体操を超えて子どもたちの事を考えてらっしゃいますが、子どもたちには今後どんな力をつけてほしいとお考えですか

山﨑:
やはり、学校教育と同じで「考える力」ですね。

運動能力がどんなに高くても、それだけでスポーツの世界において大成するのは難しいでしょう。サッカーでもボールが来た際に、パスするのか、ドリブルするのか、様々な選択肢がある中で、正確に、素早く判断できるのが重要でそれを培えるのが考える力だと思います。それらを運動と一緒にやっていけると望ましいですね。

私のクラブでは、考える力も運動と一緒に養っていくために、15パズルというゲームをやっています。このパズルは100年以上前にある数学者が絶対に解けない問題に懸賞金を掛けて有名になったものです。

他にも輪っかくぐりでは、最初は頭から、次は足からと反復して練習すると、反射的に動くことができるようになる。いわゆる学習効果というものですね。一方で、反射的に動いている癖で間違った運動をすることもあります。自分で考えて常に自分の体をコントロールできないと、あらゆるシーンで的確には動けません。反射的に動くことだけが良いというわけではないということですね。

じゃんけんもゲームも同じです。勝った人が逃げて、負けた人が追いかけるというルールを作り、しばらく実施した後に急に逆にすると大人でもなかなか対応できないんです。こうした経験を通して反射だけでなく考える力も一緒に身につけられるといいなと思っています。

大沢:
私たちもじゃんけんをやったことがあるのですが、ルールを変えると大人もなかなかできませんよね。自分の考えるスピードの遅さにがっかりします(笑)。

山﨑:
最近はあまりいませんが、昔は「うちの子は勉強が出来ないのでスポーツをがんばらせたい」とか「うちの子は塾に行くから体操をやめます」といった流れがありましたが、私はそれが必ずしも合っているとは思いません。自分を操ることができる人は学習能力も高いので、体操の練習の中で考える事をしていけば勉強にも応用することができる

こうしてスポーツをやりながら考える力を身につけていく。どうしてできないんだろう、どうすればできるんだろう、ということを普段から考えることで思考する力がつく。そうしたサイクルを生んでいきたいですね。

スポーツをスポーツだけの世界で完結させてしまうのはもったいない。オリンピックまで行ければ人生は変わると思いますが、そうした人は一握りですし体操の技術をいかした職業といっても限られています。スポーツをやっていく中で考える力を身につけた人が、人とは違う発想やアイディアを持っていたり考える力を持っていて、世の中で活躍できる様になっていって欲しい。スポーツの価値はそうした側面にもあると思っています。

私のクラブでも一般コースでは難しいこともありますが、選手育成コースではそういった視点をとても大切にしています。

学校と民間が協力し合う

大沢:
部活動でスポーツをやってきた身として、山﨑さんの指導観や教育観はとても刺激的でした。さて、今後教育活動を通じてどんなことを実現していきたいですか。

山﨑:
やはり吉田先生に教えていただいた事を、学校現場に還元していきたいですね。学校が外部から指導者を招き入れるのはハードルが高いかもしれません。しかし、私のように学校の先生をやっていた経験や教育学部で学び、その視点で体操クラブの指導をやっている方は少ないと思います。

体操クラブの先生を招き入れるハードルの一つに、普段自分のクラブで少人数で指導しているコーチに、いきなり30〜40人のクラスを任せて授業が成り立つのかという懸念があります。その点、私は小学校の非常勤講師や大学の講師の経験から学校の授業でこうした方が良いとアドバイスをすることができます。体操クラブの指導者でありながら大学や小学校で実際に授業を行っていた経験を、学校教育の現場で伝えていけたらと思っています。経営的にはクラブの会員を増やして大きくしていきたいですが、私自身の想いとしては、残りの体が動く期間に自分の知識や経験を学校現場にも伝えていきたいですね。

大沢:
社会に開かれた教育課程(※1)を実現すべく、学校も変わりつつあります。何かきっかけがあればと思います。学校の先生と山﨑さんによるチームティーチングといった発想もありますよね。

社会に開かれた教育課程(※1)
平成29年に改定された学習指導要領の前文に記載される、学校の教育課程を通じて、子供たちが社会や世界と繋がり、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していける力を積極的に育もうとする考え方。

山﨑:
以前、さいたま市で体育授業サポーターという事業がありました。私も登録し2つの小学校に勤務したことがあります。しかし、授業中自分に指導の機会が一度も振られなかったり、せっかくの勤務日だったのに予定していたクラスの都合がつかないという理由で、倉庫の掃除を何度もさせられたりと有効に機能しているとは思いませんでした。

その時参加していた授業の一つにハードル走がありましたが、子どもに跳び方の説明もなしにいきなりハードルを飛ばせたりするため、引っかけて転んで何人も顔面から血を流していました。よくよく体育の副読本を読んでみると、そこには「ハードルを置いてどれだけタイムが短縮できるか、ハードル無しの走りとの差をどれだけ縮められるか考えよう」となってるだけで、具体的な指導方法は触れられていない。つまり先生たちも指導法が分からないので、できないのは当然なんです。だからといって子どもたちが怪我をしもいいということにはなりません。

大沢:
そうした体験が実際にあった、ということを先生に発信したり講演する機会があるだけでも価値がありそうですよね。

山﨑:
小学校の先生も限られた時間の中で多くのことをこなさないといけません。先生が全てを知ってないといけない、ということはなく、子ども視点に立って専門領域は専門の方にどんどん頼っていくことで良い指導ができるといいですよね。

私自身は教員を目指していた人間の一人。体操競技は今では技が高度になりすぎて、中学や高校から部活動で始めてオリンピックに行くのは現実的に厳しい。だからこそ、私の運営するクラブでは、選手だけでなく一般の子どもたちや学校と協力しあって、多くの子どもたちに体操の素晴らしさや、それを通して健やかな体づくりに貢献していきたいと思っています。

是非機会があれば学校の先生方と協力し合いながら子どもたちに体操の指導が出来るといいですね。

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大沢 彰裕
(株)weclip 共同代表。(株)日立製作所の鉄道部門でセールスやコンサルティングに従事する傍ら、教育支援会社であるweclipを創業。プランナーとして、スクスクのメディア運営など教育支援事業に従事。1児の父。