【体操クラブ】スポーツを通じて人生を生き抜く考える力を

日常から様々な運動を

大沢:
確かに見た目の派手さや楽しさだけを求めるとそういう要素が強くなってしまいますね。山﨑さんは子ども達に体操を指導するなかで、どんなことを大切にされていますか?

山﨑:
いろいろな種目の運動を経験する、ということですね。私自身がそうだったのですが、体操競技しかしていないと体操競技しかできなくなってしまいます。体操は真っ直ぐに助走してジャンプするなど直線的な動きが多い一方、例えばサッカーなどは縦・横・斜め・ジグザグといった様々な運動方向があります。また体操は6種目中4種目が基本的に腕しか使いません。足が空中に浮いているためです。そのため、球技などをやるとどうしても苦手な動きとなります。

加えて、体操競技には空中で「体を締める」という特徴的な動作があります。他のスポーツではなかなか聞かない言葉かと思いますが、普通は「リラックスしなさい!」というのはあっても「体の締めが足りない!」とは言われないですよね。私自身もロックやヒップホップダンスなどのダンスを10年以上やっているのですが、なかなか上手にならないんですよ(笑)。すばやく大きな動作をやろうとすると、反射的に体がロックされてしまうため、柔軟に曲げたりするのも苦手ですね。

このように、そのスポーツに特化しすぎるとそれ以外ができなくなる危険性があるんです。また、器械運動は非日常運動ですので、日常運動ができない人に非日常運動を教えるのは本来よくありません。ですので私たちのクラブでは、けんだま、竹馬、こま、紙飛行機飛ばし、他にはラダートレーニングなど様々な種目を取り入れてやるようにしています。

保護者の方には、自分の子どもが運動が苦手なので体操をやらせる方もいらっしゃいます。学校の体育の授業で逆上がりができない、跳び箱ができない、かわいそうなので跳び箱をやらせてほしい、といった感じです。

しかし、日常運動ができれば小学校の体育の授業の種目はできるはずなんです。学校の体育ができないのは、なにか日常の基本運動に問題があるわけなので、例えば体操クラブで鉄棒だけ習ってできるようになっても根本的な解決にはなっていないんですよね。同じことを反復練習すれば多くの子どもができるようにはなります。しかし、普通に授業を受けていてできないのは、様々な部分で足りないところがあるからで、1つや2つじゃないんです。

先程のような器械運動以外を教えていると保護者の方からは、もっと器械運動を教えてほしいと依頼を受けることもあります。なかなか説明は難しいのですが、基本的な運動経験が不足していると何をやってもうまくいかない可能性が高く、うまくいかないので余計につまらなくなり運動をしなくなる、という悪循環に陥ってしまいます。

体操の起源

大沢:
確かに、何も指導されなくても逆上がりや跳び箱ができてしまう子と、そうでない子はいますよね。日常の何気ない運動経験が重要だと改めて気付かされます。

山﨑:
器械運動はどうしても「技」という側面で見られがちですが、それだけだと幅の少ない種目になってしまいます。例えば、鉄棒の逆上がりができない原因のほとんどは、実は腕の力が足りないからなんです。鉄棒は元来、木の枝にぶら下がって懸垂するという動きから派生した種目で、鉄棒は元々懸垂運動をするための器具だったんですね。

体操の起源はあまり知られていませんが、実はドイツが発祥です。1800年代初頭にヤーンという方が体操専用場を建設し、さまざまな体操器具を開発しました。鉄棒も元は懸垂する器具として生まれたので、腕の力がないとできない運動なんです。学校体育に鉄棒が導入された際に低い高さの鉄棒が導入されたので、腕の力にフォーカスされづらくなったんですね。

逆上がりは技術だけでやろうとするととても難しい運動で、手っ取り早く習得するには腕の力を鍛えていき、逆上がりができるレベルの筋力がついた時に突然できるようになるということがよくあります。つまり、逆上がりができないことが問題ではなく、逆上がりが出来るだけの筋力がないということが問題なんです。

これが意味するのは、年間に3〜4時間という短い単元の中で逆上がりを教えるというのは難しいということです。

私が埼大附属小学校で体育科の非常勤講師をしていた時には、1クラス40人中逆上がりができた子は5人しかいませんでしたが、単元中にできる子を一人も増やすことが出来ませんでした。そもそも、3年生の鉄棒の授業は年間で3時間(45分×3)しかないため、これでは体操を専門とする指導者が教えてもできる子を増やすのは難しく、通常の先生が難しいのも当然です。

だからといって、休み時間や放課後で時間を確保するというのには疑問を感じます。以前ある小学校の先生の研究授業を拝見した際、ものすごい技(両足掛け後ろ回りやこうもり振り一回転〜降りなど)を子どもたちがバンバンやっていました。しかし、休み時間や放課後などを活用しないと学校の単元の時間内だけでは絶対に出来ないことだと思います。授業を超えてやってしまっては、なんでもありになってしまいます。大切なことは体操の授業に限らず、授業外の時間や課外活動を通して様々な運動を経験し、その中で体の感覚や筋力を身につけていくことだと思います。

保護者と指導者、それぞれの役割

大沢:
体操を指導される方から、体操以外もやったほうがいいと言われるとは思いませんでした。ちなみに、普段のクラブの指導ではうまくいかない子どもたちへどんな言葉をかけていますか。

山﨑:
私たちスポーツの指導者は、正しいことを教えるのが重要だと思います。褒めて伸ばすことも大切ですが、褒められないとできない子になってしまう恐れもあります。器械運動に限らず何事も最初は簡単なことが多いですが、上達するとその分ぶつかる壁も高くなり簡単には超えられなくなります。

褒めるだけでは超えられない壁にいつかはぶつかるんですね。幼稚園生などには褒めることを大切にしていますが、段々と大きくなっていくにしたがい、正しいことをきちんと教えて今自分が何ができて、何ができていないのかを自分で考えられるようにしてあげるのことが指導者の役割だと思っています。

ただし、保護者の中には私たち指導者と同じことを家でも言ってしまう方もいて、子どもたちが体操を嫌になってしまい、最悪やめてしまう子がいるのも実状です。ですので、親や指導者にはそれぞれ「役割」というのがあると思っています。家庭では褒めてあげてほしいですし、クラブでは正しいことを指導していきたいですね。そこはこれからも大切にしていきたいと思っています。

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大沢 彰裕
(株)weclip 共同代表。(株)日立製作所の鉄道部門でセールスやコンサルティングに従事する傍ら、教育支援会社であるweclipを創業。プランナーとして、スクスクのメディア運営など教育支援事業に従事。1児の父。