【ICT教育】学校嫌いだった私が、教員を通して実現したいこと

 

ひとりの子に寄り添いたい

大沢:
先生になってよかったと思いますか?

香川:
はい、思います。不思議なものですね。(笑)
面白いのは、実際に教師の立場になってみると、私の場合「先生は意外と好きなことをやれるな」と思っています。学習指導要領(※5)の読み方次第では、いくらでも授業は工夫できますし、たとえば私がやりたかった音楽での創作活動や映像編集、写真撮影なども授業でできます。

また、子どもたちのアイディアに乗ると自分も知らなかった世界を見ることが出来たりします。例えば、ボランティア活動。以前は興味なかったんですが、あるとき受け持った子どもたちがこう呼びかけてたんです。「恵まれない子どもたちに、衣料支援のボランティアをやりたい」と。

子どもたちなりに人の役に立ちたいという行動は、集団としてとてもパワーがあります。僕はその姿を見て、ボランティアや支援について学びました。

最近は教育観が変わってあまり思わなくなりましたが、昔は子どもの疑問には全て返さないといけないと思い込んでました。だから何でも知ってないといけない、子どもの前で恥はかけないと思って、子どもから出てきた言葉を全て調べてましたね。やればやるほど視野は広がりましたしそれはそれで楽しかったです。

大沢:
どんな職業でも、小さな疑問を残すなと言われますよね。ちなみに、香川さんは子どもたちと接する上で何かこだわりとかあるんですか?

香川:
「自分が変わり続ける」ということですかね。

時代や家庭環境も変われば、子ども一人一人それぞれ違っていて。実はその考えの根底にあるのは母に言われた「教師生活、一人の子に寄り添えればいい。」という言葉。そのためにも「自分が変わり続けないと、子どもに寄り添えないよな。」と考えてます。

大沢:
公教育でも最近は、指導の個別化、学習の個性化(※6)と言われてます。それを突き詰めるほど先生の働き方改革と逆行しますよね。先生方の手当も少ないと聞きます。

香川:
私はそもそも教員の仕事をあまり忙しいと思ったことがなくて、給料が低いと思ったこともないんです。毎月ちゃんとお給料を頂けてありがたいという想いですし、労働環境だけでいえばラーメン屋の方が過酷でした。

学芸会ではプロジェクションマッピング他、子どもたちと台本を作成したり、作曲、創作活動を教育活動に取り入れた。

 

教育には「型」がない

大沢:
香川さんは教員として働く上で何かこだわりはありますか?例えば、教材研究を終えないと家に帰らないとか。逆に定時になったら必ず帰るとか。

香川:
こだわりではないですが学校だと仕事できないんですよ(笑)。とにかく喋ってしまって、「今の5分で済むでしょ」というのを30分以上かけたり。なので、最近は喋るだけ喋って、すぐに帰るようにしてます。昔は学校に21時、22時まで残るのは当たり前でした。先輩に悩みを聞いてもらいながら教材研究してたのが多かったですね。

大沢:
教師のイロハ、基礎のようなものは教わらないんですか?

香川:
先生それぞれですね。算数の四則混合計算は()カッコは先に計算するという公式がありますよね。それをある先生にこう言われたんです。「香川さん、いい方法思いつきました。カッコは王様”カッコキング”ってキャラクターどう思う?」と。

大沢:
楽しく教えたかったんでしょうね。(笑)

香川:
「どういう根拠でそれをやってるんですか?」と真面目に聞いたんです。(笑)

すると「香川くん、私は算数の指導要領を読んでないので偉そうなことは言えない。ただ、算数の教科書を読むと、これはつまらない、ということだけは分かるのでカッコキングが生まれたんだ。」と言われて(笑)。

大沢:
大切な視点ですね。(笑) 今振り返ってみてそれは活きてますか?

香川:
活きていますね。例えば、特別支援学級(※7)ではユニバーサルデザインが推奨されるのですが、その先生は度外視してカフェの様な教室にしてました。どんな特性や環境であれ、その子が落ち着くならいろんなものを置いていいんだ、という話をされていて。子どもたちを見るうえで多様な視点を学べましたね。

また、タイミングがよかったことに、僕が産休・育休代替で勤めていた学校の1年目の時に、文科省指定の国語科の研究発表会があったんです。そこでは、当時の学習指導要領の著名な調査官が講師として来てくれたんです。

1年目にいきなり全国発表という経験をさせてもらいました。その際、『ごんぎつね』の作者、新見南吉の生まれ故郷である名古屋に教材研究に行くなど、教材研究の仕方や子どもたちの見方はその講師の方から教えてもらいましたね。

■学習指導要領(※5)
全国どこの学校でも一定の水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準。およそ10年に一度、改訂されており、子どもたちの教科書はこれを基準に作られている。

■指導の個別化、学習の個性化(※6)
文部科学省の目指す一人ひとりの理解状況や能力・適正に合わせた個別最適化された学びを整理したもの。「指導の個別化」「学習の個性化」の2つに大別される。「指導の個別化」とは、子どもの一人一人の特性や学習進度などに応じて指導の量や質を柔軟に変えて設定すること。「学習の個性化」とは、子ども一人一人の興味関心に応じて課題を設定し、取り組む機会を提供することで子ども自身の学習が最適になるように調整することを指す。

■特別支援学級(※7)
小・中学校に設置されている障害のある児童生徒を対象にした少人数の学級。児童生徒のニーズに応じて、障害による学習や生活の困難を克服するための特別の指導を行う場。通常の学級同様、学級担任が配属される。

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大沢 彰裕
(株)weclip 共同代表。(株)日立製作所の鉄道部門でセールスやコンサルティングに従事する傍ら、教育支援会社であるweclipを創業。プランナーとして、スクスクのメディア運営など教育支援事業に従事。1児の父。